メラメラと燃えるような黄金の太陽を背に、2頭の真っ赤なガウル(ウシ科の大型野牛)が向き合うマークでお馴染みの栄養ドリンク「レッドブル」。
世界160カ国以上で販売され、同種の栄養飲料としてはシェア世界一を誇るお馴染みの1本が、タイが発祥であることを知る日本人は意外と少ない。
タイ語で「クラティンデーン」と呼ばれるこの1本で巨万の富を築き上げたのが、レッドブル創業家のユーウィッタヤー財閥。
華僑2世の製薬商はオーストリア人の合弁パートナーの協力で世界的なヒットを呼び込んだ。
その後はワイナリーの経営や病院事業、さらにはモータースポーツのF1事業にも進出、経営の多角化にも乗り出した。
2012年9月には創業者の孫が警察官を車で跳ね死亡させる事故を起こしながら使用人に身代わり出頭させ社会問題にも。
今回は、栄養ドリンク「レッドブル」で成功した一族の話――。(敬称略)
業界関係者によると、タイ国内の栄養ドリンク市場は現在、約360億バーツ(約1200億円)。
ここでレッドブルはシェア約20%を数える。
首位の「M-150」の約45%、2位「レッド・カラバオ」の約25%のいずれも後発2社の後塵を現在は拝しているが、急速に市場が拡大しつつあるスポーツ飲料市場(市場規模約80億バーツ)では同社の「スポンサー」が80%超という驚異的なシェアを独占している。
機能性ドリンク「マンサム」もシェア50%超と好調で、高付加価値飲料の業界全体で見た場合の圧倒的な地位に揺ぎはない。
レッドブルを開発したのは、タイ北部ピチット県出身の創業者、故チャリアオ・ユーウィッタヤー(許書標、1924~2012年)。
父親のルーツは中国海南島。
育った家庭は貧しく、学費が支払えずに高校への通学継続を断念。
食用アヒルの飼育や果実の栽培などをして家計を助けた。
このころの経験が実業家として成功を収める原点となったと、後に親しい知人に語っている。
成人後は製薬会社に勤め、ここで薬学の知識を得た。
68年、自身で製薬会社「TCマイシン」を設立。
鎮痛剤を開発し、無料サンプルを配布したところ爆発的なヒットに。
一気に市場を掴む戦術は、この時に体得した。
78年には新たに「TCファーマシューティカル・インダストリー(TCPグループ)」を立ち上げ、ここで新たに自らが開発した栄養飲料「クラティン・デーン」を製造、販売に乗り出した。
当時、タイの栄養ドリンク市場は、鷲のマークでお馴染みの日本企業、大正製薬「リポビタンD」の天下。
チャリアオは商品名をとにかく市場に浸透させようと、工業団地や港湾施設に物資を運ぶトラック運転手に向け大量に無料サンプルを配布。
ロゴに使用したガウルに親しみが持たれたことや、比較的多量のカフェインが含まれていたこと、さらに安価だったことから肉体労働者を中心に爆発的ヒットを呼び、瞬く間に市場に広がっていった。
一時は3分の2のシェアを確保するまでに急成長を遂げた。
その後、商用でタイを訪れたオーストリア人のビジネスマン、ディートリッヒ・マテシッツがチャリアオの栄養ドリンクと出会い、意気投合。
合弁事業化を進めることとなり、レッドブル社(本社・オーストリア)の設立となった。
マテシッツは「クラティン・デーン」に独自の配合を加えることで、世界各地に適合した栄養ドリンクを考案。
名前も「レッドブル」シリーズに統一し、世界制覇を目指した。
レッドブル社は、チャリアオとマテシッツが49%ずつの同額出資で設立。
残りの2%をチャリアオの息子チャルームに持たせた。
本社をオーストリアに置きながら影響力を維持するためだったとされている。
現在、タイ法人グループの年間売上高は約300億バーツ。
2022年までに1000億バーツに引き上げる計画でいる。
チャリアオを中興の祖とするユーウィッタヤー家の17年度資産は米経済誌フォーブスの試算で約125億米ドル(約1兆4000億円)とされており、タイでは第4位にランキングされている。
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