乗り越えた経済危機
97年7月、CPに創設以来の最大の試練が訪れる。タイ政府によるドルペッグ制から変動相場制への政策転換、いわゆるバーツ危機だった。アジア各国を巻き込んだ通貨の下落はアジア通貨危機と総称された。バーツはドルに対し50%も下落。外貨で債務を負っていたアジア企業は軒並み経営危機に陥った。
外資系銀行は資金の回収に動き出し返済を迫った。CPも例外ではなかった。総帥としてのタニンはこの危機をグループ企業の株式売却で乗り越えようとした。ロータス株はその75%を英テスコに、サイアム・マクロ株も蘭SHVに売却した。中国事業も縮小を余儀なくされた。
この結果、こうした事態も21世紀を迎えた2000年代半ばまでには収束し、CPは再び地固めを進めていく。東南アジア各国に飼料工場や加工工場などを建設し、ブロイラーなどの一貫生産輸出体制を拡大していった。2013年には中国の平安保険にも出資、金融事業にも乗り出した。欧州の食品加工企業も買収。14年には日本の伊藤忠商事との業務提携にこぎ着けた。タイ、東南アジアにおいて、もはやCPの脅威となる存在は見当たらないと言ってもよかった。
中核3事業安泰も、人事課題がカギか
現在、グループの中核を成す事業は3つ。セブンイレブンとサイアム・マクロを核とするCPオール(CPA)、孫会社CPポカパンと外食チェーンを擁する食品・飼料統括企業CPフーズ(CPF)、そして、通信大手トゥルーである。近年は、セブンイレブンの窓口で航空機チケット決済ができるなど、3事業が相互にシナジー効果を発揮、新たな収益源ともなっている。
総帥タニンは今年満77歳。息子3人娘2人に恵まれ、息子達は関連事業の要職に就いている。これまで、グループの中核事業であるアグリビジネスには親族にも足を踏み入れさせないとしてきたタニンだが、後継には長男スパキットを、さらにその後任は三男のスパチャイを推すことが固まっている。このため「結局は世襲ではないのか」との声も少なくない。向かうところ敵なしのCP。今後、世界のトップ企業と対等に渡り合えるかは、こうした人事課題がカギとなってくるのかもしれない。(この項おわり)
【CPグループ】大規模なブロイラー生産をきっかけに、今日の地位を築くに至った「チャロン・ポカパン・グループ」。初代総帥エックチョーには2人の妻との間に12人の子供がおり、長男ジャラン(正民)、次男モントリー(大民)、三男スメート(中民)、四男タニン(国民)の4人の息子が事業に携わった。この中で、末弟のタニンが一族から後継指名を受け、グループトップとして現在まで舵取りを続けている。1921年設立は間もなく創業100年を迎える。連載後半はタニン政権下で事業部制を採り入れ、通信、石化、不動産など複合コングロマリットを形成していった軌跡を概観した。(敬称略、写真はCP-eニュースから)
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