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【タイ仕掛人インタビュー】Kenji’s Labオーナー 中山健次氏

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ある時は「ダイニングバー」。また、ある時は「BISTRO」
「デートに誘いたい店バンコクNo.1」。
そんな表現がよく似合う店「Kenji’s Lab(ケンジズ・ラボ)」。バンコクのトンロー通りSoi Thararom2(Thonglor 18/1)の一角に位置するその街並みは、どこかお洒落で静か。
アフタヌーンティーやワインがよく似合う。オープンから4年。
無宣伝、口コミだけでここまでの集客を実現させたオーナーの中山健次氏に話を聞いた。

Q:それにしても連日の大盛況。どんな店作りを目指しているのですか。

A:至ってシンプルですね。自分の食べたいものがある店、飲みたい酒がある店、そして働きたいと思える場所。それがKenji’s Labです。ダイニングバーでもあり、BISTRO的でもある。簡単にはカテゴライズができない。それが、また魅力になるような、そんな店。現在13人(ホール6人、キッチン7人)いるスタッフの給与も、オフィスワーカー並み。ボーナスも支給しています。

Q:料理の特色は?

A:レシピのアイデアは無数にありますね。こうしたらどうだろう?あれを合わせてみたらどうなるか?ですから、メニューはどんどん増えていっています。しかも、一つ一つが独立したレシピ。カレーとカツカレーを2種類と数えるようなカウントの仕方はしていません。この規模で100種類以上もの料理がある店はそうはないでしょう。

Q:店名に健次さんの名前を入れているのは?

A:いつかは自分の店を持ちたいと思いながら、ようやく実現できたのが今の店。準備に1年を費やしました。オープンは2012年11月30日。いろいろとコンセプトを考え、世界で勝負していくからには、店名に自分の名前を入れるしかないだろうと。「すきやばし次郎」然り、「銀座ろくさん亭」にしても然りです。

Q:タイとの出会いは?

A:地元埼玉での飲み仲間に工業デザイナーの仕事をしているイギリス人がいたのですが、この友人の父親が店舗デザイナー。バンコクのスクンビットソイ38で手掛けたタイ料理とインド料理の店で近く日本食を始めるのだけど、料理人がいない。「で、お前、行かないか?」って。少しだけ考えましたが、責任を与えてくれることを条件に受けることにしました。2008年、これがタイとの馴れ初めです。

Q:不安はなかったのですか?

A:あまりそういうことは考えませんでした。ただ、最初は単身での生活。妻がタイにやって来たのは1年後のことでした。一方で、待遇は良く、頑張れば独立資金が貯まるという水準で、1回の更新を経て通算4年。この間、資金を蓄えながら、バンコクでの人脈作りも進めました。

Q:その間、地元テレビ局から出演要請があったとか?

A:IRON CHEF(アイアンシェフ)のことですね。ちょうど、ソイ38の店に勤めていた時のことです。facebook友達を通じて大手広告代理業の社長から声がかかり、「タイ版アイアンシェフをテレビ放映するのだが、審査委員をしてもらえないか」と。収録の1週間位前のことでしたが、慌ただしくスーツを用意してテレビ局へ。良いチャンスをいただきました。同じ番組で、陳建一さんの中華対決を審査したこともあります。

Q:料理との出会いは?どんな子供時代でしたか?

A:3人兄弟の真ん中。子供のころから大食漢で、年の近い兄とは食べ物の取り合いの毎日でした。食べることは競争で、人一倍、食に執着がありました。こうした事情もあったからでしょうか。嗅覚や味覚にも敏感で、幼いうちからスープの素材を言い当てることもできました。当時、中華料理店のマネージャーをしていた父(故人)が驚いて、「お前には寸胴を買ってやる」と言ったほどでした。

Q:料理をするようになったのはいつごろですか?

A:中学校に通うころには、もう台所に立っていました。学校から帰って、夕食までまだ時間がある。とてもお腹が空くんですね。夕飯まで待っていられない。そこで自分で料理するようになりました。よく作ったのは、お好み焼きと焼きそば。でも、最初は失敗の連続で、粉っぽくなったり、鉄のフライパンに焦げ付いてしまったり。もちろん、全部食べましたけれど。

凝り出すようになったのは、中学校で山岳部に所属してからです。一貫して食材担当でしたが、あれこれと考えて作る料理が評判でした。長いときには1週間も10日間にもなる山岳登山。少しでも荷を軽くするため、持って行く食材にも制限がありました。そんな時の、ちょっとした工夫が喜ばれるんですね。

Q:例えば、どんな工夫ですか?

A:夏山登山では持って行けない生ものも、冬山登山では持参が可能。柔らかく下処理しておいた豚肉をバターで固めて、それを鍋に入れるだけで美味しいカレーの出来上がり。切り落とした粕漬けに、下処理したダイコンなどを加えて作った粕汁も、とても好評でした。「お前の作る料理は最高だ」なんて言われて、悪い気はしなかったですね。山岳部には高校、大学と所属しましたが、ずっと料理担当でした。

Q:大学卒業後は?

A:料理好きと言っても独学ですから、ひとまず関心のあった東京の映像制作会社に勤めました。そこで山岳ブームのきっかけとなったNHKの「日本百名山」の企画制作に出会います。「名山」を求めて全国の山々を渡り歩く取材。ここでも料理担当は私。酒を担いで山を登り、テントの前で肉を焼く。最高でした。オフには有給の消化も兼ねて冬山登山。ここでも変わらず、料理の腕を披露していました。

転機は、社会人になってから始めたスノーボードで、米アラスカを訪ねた時にやって来ました。当初は2週間の滞在予定でしたが、大自然に親しむうちに「人生、これでいいのか」と。そんな時に知り合ったのが一人の米国人男性でした。一料理人にして、ライフスタイルがとても豊か。渓谷では愛犬とサケを追い、それを素材に好きな料理を作る。スノボで山を滑るのも自分の好きな時に。一切の暮らしに嘘がない。「俺も、こういう生活がしたい」。そう思ったのです。

Q:会社を辞めたのですか?

A:無断欠勤ですから、いわゆる馘首です。でも、そんなことも気にならないほど気分は高揚していました。「やりたいことをする。日本に帰ったら、山岳ガイドになる!」と。そう思って帰国しました。自分の人生が見つかった。ちょうど30歳の時でした。

ところが、人生はそう思ったとおりには行きません。山あり谷ありです。帰国直後の残雪の春山でスノボのトレーニング中に激しく転倒。靱帯切断、半月板損傷。膝に大けがをしてしまったのです。もう、スノボもできない、ガイドもできないと思うと、暗澹たる気持ちでした。

Q:それからどうしたのですか?

A:雇用保険も切れるころ、少しでも割の良い仕事をしようと建築現場の資材搬送のアルバイトを見つけました。毎朝5時に集合し、ひたすら現場で荷を運ぶ仕事。膝は完治していませんでしたが、そんなことも言っていられませんでした。帰宅すると、寝付けないほど身体が疲れている。そんな暮らしを10カ月ほどしました。

山岳部の経験を活かして、山小屋でのアルバイトもしました。南アルプス北岳。半年ほど住み込みで仕事をします。ここでも料理の腕前は重宝がられました。客とスタッフの食事は全て私が担当していました。

Q:大変なご苦労があったのですね。

A:山を下りた後は、地元埼玉で飲食店に勤めました。和洋中、一人で何でもこなしました。このころ、イタリア料理店を開きたいと密かに考えていたのですが、30歳過ぎのアマチュア料理人。今さら無理だろうという諦めも一方でありました。そんな時、常連客だった元寿司職人の手さばきを目にする機会があり、「魚を扱うなら和食の経験が必要だ!」と、日本料理店での修行を決意したのでした。

和食店では8カ月ほど、ほとんど雑用でしたが、日本料理の経験も積みました。また、その後に勤めた居酒屋では併設する寿司店でも働き、魚の処理などを学びました。「タイに行かないか?」と声がかかったのは、ちょうど、そのような時でした。

Q:健次さんにとって目指す仕事とは?

A:きれいな仕事。店は清潔で、決して不快にはさせない。スタッフには、心を込めて料理を作り、接客をするようきつく言い聞かせています。食材にも当然こだわる。今でも買い物は自分の目で行っています。

Q:近く、新店舗をオープンするようですが?

A:プラカノンソイ(プリーディー)2と4の間で、丼物を中心とした新店舗「よーい丼」を11月中旬にもオープンさせる予定です。バンコクで沖縄料理「金城」を経営する大高昇平さんとの共同出店です。異なる強みを持った者同士のコラボで相乗効果を狙います。カテゴライズできない、そんな店舗を目指します。

北米アラスカでの経験から、会社による解雇。そして膝の大けが。建築現場のほかいくつかの料理店で経験を積みましたが、無駄であったと思うことは一つもありません、人生はどこかで全てが繋がっている。そう信じて止みません。バンコクでのご縁、そして新店舗もそうした延長の一つだと思っています。(了)

この記事を書いた人(著者情報)

kobori

2011年11月、タイ・バンコクに意を決して単身渡った元新聞記者。東京新聞(中日新聞東京本社)、テレビ朝日で社会部に所属。警視庁記者クラブで2・4課担当を通算4年経験。銀行破綻などの各種金融事件、阪神大震災、オウム真理教事件などの取材にも当たった。事件記者出身だが、取材対象は政治・経済、社会、科学、文化までなんでも。日本の新聞、雑誌、タイのフリーペーパーやウェブサイトなどでも執筆中。著述、講演多数。

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