世界の注目がロシアによるウクライナ侵攻や台湾問題など、いわゆる大国間対立に集まる中、国際情勢の専門家の間では、それによってASEANの一体性が揺らぐだけでなく、一体性を売りにしてきたASEAN内部で分断が進むことへの懸念が強まっています。
例えば最近でも、インドネシアのルトノ外相も2022年9月26日、国連総会一般討論演説で「ASEANが新冷戦の駒になることを拒否する」との考えを示し、第2次世界大戦勃発までの動きと現在の対立プロセスが似通っており、世界が間違った方向に進んでいると警告しました。
また、11月にG20を主催するインドネシアのジョコ大統領は6月、欧米がロシアの参加を拒むよう圧力やけん制を強めるなか、ロシアを孤立させるべきではないとの認識を示し、プーチン大統領を招待すると発表しました。
こういったASEANの声が日本で報道されることは、ほとんどありません。
しかし、こういった世界情勢の微妙な変化は、時間がたつにつれASEANで経済活動を続ける飲食企業にとってのリスクになる恐れがあります。
1つは、日本とASEANの関係です。
日本とASEANの良好な関係は双方の努力によるものですが、ロシアによるウクライナ侵攻において、日本はASEANに対し欧米陣営に参加するよう呼び掛けています。
しかし、今日、ロシアに対して制裁を実施しているのはシンガポールのみで、その他のASEAN諸国は制裁に加わっていません。むしろ、“あまり大国間対立に加わりたくない”“この問題で我々にこれ以上首を突っ込むな”というのが各国政府(特にインドネシアやマレーシア、フィリピン、ベトナム)の本音で、日本の呼び掛けを本当は良く思っていません。
今すぐ現地の飲食企業がビジネスをしにくくなるということはありませんが、中長期的に考えるならば、こういったささいな政治の動きにも注目する必要があるでしょう。
また、大国間対立はASEAN内部の分断を一層進める恐れがあります。
ずばり、ASEANでもカンボジアやラオス、ミャンマーは長年の中国からの経済援助で、基本的には親中的です。
これらの国でビジネスを積極的に展開する日系飲食企業は多くありませんが、今後の人口ボーナスや経済発展、そして縮小する日本市場を考慮すれば、新たな可能性を秘めている魅力ある国々と言えます。
しかし、大国間対立、そして日中関係が冷え込めば、同3国での日中のビジネス競争が激しくなるだけでなく、中国からの圧力で日本企業と距離を置く現地企業も出てくることが懸念されます。
飲食企業がベトナムやタイなどでうまく経済活動をしていることからすれば、これはまさにASEANの分断を意味します。
幸いなことに、今すぐ飲食企業にとって悪い環境が訪れるわけではありませんが、大国間対立によってASEAN各国がどういうスタンスか、それによってASEANの分断が進むのかを把握する必要があります。
国同士の対立は政治の話ですが、それが経済に直接影響を与えるのはウクライナ情勢が証明しています。
ASEANにおいても政治の変化、それによるビジネスへの影響を注視していく必要があります。
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