インドネシアという国では、とある「変革」が進んでいる。
それは社会の「スマート化」だ。
インドネシアではスマートフォンの所有率が年々上がり、それに合わせてアプリを使ったサービスも充実するようになった。
今やこの国の人々にとって、スマホはなくてはならないもの。
逆に言えば、スマホさえあればこの国では何でもできるということだ。
この記事では、インドネシアの「スマート化」の様子を少し覗いてみたい。
その前に、ここで同国のスマホ普及の歴史について解説しよう。
2000年代末、インドネシアで爆発的に普及したのはBlackBerryだった。
日本ではほとんど流行らなかった機種だが、10年前の国際スマホ市場ではBlackBerryが王座を手にしていた。
だから今でも、この国のメッセンジャーアプリはBlackBerryの「BBM」が大きなシェアを占めている。
しかし、BlackBerry自体が頂点に君臨していたのはもう昔の話。
2013年ごろからAndroidのスマホが台頭し始めると、BlackBerryは見捨てられるかのごとく市場から駆逐されていった。
そして2015年、100ドル程度の格安Androidスマホが一斉に販売される出来事を契機に、大勢は固まった。
今やミドルクラス以下の市民のスマホは、その大半がAndroid OSである。
Androidの汎用性は、新興国政府にとってもじつにありがたい。
スマホ製造やアプリ開発で産業を創出することができるからだ。
逆にApple製品はあまり旨味がない。
iOSはAppleの商標がついた製品にしか搭載されない。
だからこそインドやインドネシアでは、Appleに対して「全部品の3割を現地供給にしないと販売を認めない」と条件を課している。
要するに、今現在のインドネシアは「Androidの天下」ということだ。
スマホを自国で製造し、それにダウンロードするアプリも自国で開発する。
それがインドネシア政府の思い描く理想図である。
『Go-Jek』は、そんな理想にマッチしたスマートサービスだ。
東南アジアにはバイクタクシーというものがある。
インドネシアの場合、それらは「Ojek」と呼ばれているのだが、バイクタクシーをスマホアプリで呼び出そうという動きが2015年から盛んになったのだ。
この流れで、配車サービスGo-Jekが登場した。
この業種の世界的有名企業はUberだが、じつはUberはインドネシア政府から好感を得られてはいないようだ。
それは、Uberの「インドネシア現地法人がない」ということだった。これについては、ジャカルタ州知事バスキ・プルナマ氏、バンドゥン市長リドワン・カミル氏も苦言を呈した。カミル氏の場合はUberに直接コンタクトを取って話し合いの場を設けたほどだ。現地法人がないということは、様々なインドネシア国内法を逃れているという意味である。特に法人税を支払っていなかったという点は、大きな話題になった。これらが解消されない限りはUberは非合法であると、愛妻家で有名なカミル氏が、いつになく厳しい表情を見せたのだ。
日本に進出しているUberは当初から現地法人を設けているが、それは国土交通省の管理が細部まで行き届いているという証でもある。
新興国はその限りではない。
この問題の解決には時間がかかった。
だが、そうであるからこそ現地系IoTサービスの「活躍」が望まれているというわけだ。
さて、早速ながらこのGo-Jekを利用してみよう。
まずはアプリをダウンロードし、簡単な個人情報を入力したら準備完了。
ピックアップ地点と行き先を指定したら、先に料金が表示される。
その後、ライダーを呼び出してピックアップ地点で待つ。
料金は目的地到着後に現金で支払うか、『Go-Pay』という独自決済サービスを利用する。
インドネシアのタクシーは、今でもカーナビが搭載されていないのが普通だ。
だがGo-Jekのライダーはスマホのナビゲーションがあるから、どんなローカルな場所にも迷わず行くことができる。
何より、料金が安い。
それまでのバイクタクシーは事前交渉料金で、外国人は容赦なくぼったくられていた。
だが、Go-Jekではそういうことは絶対に起こらない。
明瞭会計で外国人にも優しいサービスである。
しかもGo-Jekは、バイクタクシーだけを手がけているわけではない。
ケータリングや買い物代行、軽輸送、チケット販売、マッサージ師やハウスキーパーの派遣、さらには医薬品デリバリーも行っている。
もっとも、この中にはまだ試験段階の種目もあるが、Go-Jekがインドネシアの物流に大革命をもたらしているという事実には変わりない。
現代インドネシアを語る上で、まずGo-Jekを知ることは避けて通れない道である。
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