タイの首都バンコクの飲食店やサービス店などで、これまで貴重な労働力として働いてきた隣国ミャンマーやカンボジアの人々をめぐって異常な事態が起こっている。
発端は、軍政が6月26日付けで示したタイ外国人就労法にかかる労働省通達だった。
これにより、摘発を恐れたミャンマー人従業員らが自宅に引きこもり、出勤を拒むといったケースも見られるようになった。
緊急のレポートをお伝えする。
バンコクの入国管理局や労働局の窓口は27日午後以降、通達の内容を確かめる電話や、手続きを進めようという飲食店などの事業主らで大混雑するようになった。
これまで、事実上黙認されてきたミャンマー人やカンボジア人といった肉体労働に従事する者についても、厳格な滞在資格(ビザ)が要求されるようになったためだ。
ところが、窓口の政府職員にも〝寝耳に水〟だった様子で、どんな書類を必要とするのかさえ分からない。
雇用主の保証を条件に、これまで隣国の不法滞在者に例外的に発給されていた短期滞在証明(通称ピンクカード)との整合性も分からない。
窓口では怒号が飛び合い、あちこちで混乱も。
ある職員は「どんな、書類が必要かって?そんなこと私も知らないわ。代書屋に聞いて」という有様だった。
通達では、タイ国内で就労を希望する全ての外国人について、労働局による労働許可証(ワークパーミット)の発行と、それに基づく入国管理局による滞在資格(ビザ)の発給を厳格に求めるとしている。
違反した場合は不法就労者1人につき最高で80万バーツ(約250万円)の罰則金と、これまでにない高額が設定された。
労働許可を取得しないまま隠れて就労していたことが発覚するなど悪質なケースでは、身柄拘束し、本国に強制送還後、数年間の再入国禁止も実施するとしている。
違反行為については、事業主の責任も取るとする。
文面からは、ミャンマー人などの隣国に限らず、日本人も含む全ての外国人に適用されると読める。
28日未明から29日にかけては、さらに新たな展開も見られるようになった。
バンコク東部のミャンマー人労働者が多く住む地区では、地元警察による違法滞在者かどうかの職務質問が実施されるようになった。
警察官が巡回しているとの情報は瞬く間にミャンマー人街に広がり、拘束を恐れて出勤を控える姿も。
飲食店などでは閉店を早めた店もあった。
国境では、軍による追求を免れようと多くのミャンマー人が一時出国のため殺到しているとの情報もある。
一方で、ミャンマー人らを多数雇用する事業主からは軍政に対する強い不満の声が起こり、政府へ再検討を求める行動となって現れている。
不法就労者の取締強化は、軍政が秩序維持のためにかねてから主張していたところで、それ自体は突発的なことではない。
ただ、前稿でも書いたように、軍による政治・経済の両面にわたる支配が続く中、タイでは軍政に対して「忖度」する動きがあらゆる場面で広がっている。
【知らないと損するタイ進出情報】4年目に突入したタイの軍政をどう読むか
つい数日前には、バンコク都内の有名風俗店が摘発され、数人の身柄が拘束された模様だ。
同店は日本人観光客も多い店で、これまでは軍上層部との関係から「摘発は対象外」と目されていた店だった。
一連の労働省通達や職務質問の強化、さらには風俗店の摘発も、解明の鍵となるのは省庁など各種機関による「忖度」と見られている。
軍政である限り、こうした動きがこれからも起こる可能性は少なくない。
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