インドネシアは、隠れた「ビール大国」かもしれない。
この国はイスラム教国、という誤解がある。
確かにインドネシア国民の9割近くはイスラム教徒だが、国教としてイスラム教が指定されているわけではない。
この国のスローガンは「多様性の中の統一」だ。
だから憲法の上では、イスラム教徒もキリスト教徒も仏教徒も全員平等の権利を有している。
従って、宗教を理由に酒の流通を禁止することはできない。
インドネシアでも、各地でアルコール飲料が消費されている。
インドネシアのビールと言えば、代表的なものは3種類。『Bintang』と『Bali Hai』、『Anker』である。
その中で、最もよく見かけるのはBintangだろう。
一つ星のマークは、外国人の間でもよく知られている。
そして新製品開発にも積極的なメーカーであり、最近ではフレーバー入りのカクテルビールの販売にも力を入れている。
だが、いずれにせよ言えるのは、インドネシアも日本と同様ラガービールが最も流通しているということだ。
旧イギリス領のマレーシアに比べて、上面発酵のエールビールはあまり飲まれていないというのが筆者の実感だ。
首都ジャカルタのバーでも、上の3種類のビールはメニューの定番だ。
値段は大瓶で3万5000ルピア(約290円)前後が相場である。
小売店で買えばもう少し安くなる。
イスラム教徒が大半のインドネシアで、果たしてビールが売れるのか?
「イスラム教徒が大半」というのは、あくまでも全体的な統計の話である。
インドネシアには外国人もいるし、クリスチャンもいる。
現に日本から進出した豚骨ラーメン店が、非ムスリムに対象を絞ることによって成功を収めている。
そうしたことは、もちろんアルコール飲料にも当てはまる。
ところが、ここ数年で中央政府が酒類販売規制を打ち出した。
コンビニ等の小規模店舗でアルコール飲料を販売してはいけない、という内容のものだ。
外国人観光客の多いバリ州は例外とされたが、それ以外の地域はジャカルタを含めて規制の網を被った。
コンビニからビールが消えたのだ。
これについては一刻も早く規制撤廃を求める声と、むしろバリ州も同様の規制を課すべきだという声がぶつかった。
ここで注意すべきは、後者の意見は宗教上の理由で発せられるものではないということだ。
インドネシアは「多様性の中の統一」を国是とし、すべての国民が同等の権利を持つという前提が存在する。
だからネット上のポルノ規制を進める際も、関係省庁の担当者は「この問題と宗教上の戒律は関係ない。あくまでも有害コンテンツを排除するためだ」と声明を出す。
小規模店舗でのアルコール飲料販売規制の際も、その理由は「健康促進と青少年の健全育成のため」だった。
これに対して当時のジャカルタ州知事が「ビールで人が死ぬなんて話は聞いたことがない」と皮肉を言っている。
だがそれでも、インドネシアビールの人気は非常に根強い。
上記3種類のビールを飲み比べて、「どれが一番美味いか」という議論に花を咲かせる日本人も多い。
ある人は日本のラガービールの味わいに近いBali Haiを推し、またある人はコクの強いAnkarを絶賛する。
筆者の偏見だが、Bintangが一番美味いという日本人はあまりいない気がする。
なぜかそれ以外の2種に人気が集中している模様。
インドネシアビールの人気は、規制の波を跳ね返してしまうほど強固な土台を形成しているようだ。
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