間もなく3000店に達しようかというタイの日本食レストラン。
ラーメン、ギョウザ、焼肉、トンカツ、純和風料理、各種定食など、今では日本国内と何ら遜色のないところにまでジャンルも味覚も本場仕込みに近づいている。
だが、「ちょっと待てよ?」と思わないだろうか。
何でもかんでも食材を日本から輸入していては、コスト高となって客も敬遠?
そう、そんな心配がないよう、タイで業界を支えている人たちがいる。
日本食材を専門に生産する現地食品メーカーだ。
老舗の一社「バンコク・インター・フード(BIF)」GMの藤岡学氏を取材した。
Q:随分と静かな田園地帯に工場があるのですね。まずは会社紹介を。
A:「バンコク・インター・フード(BIF)」は華僑財閥の名門チンタミット家がオーナーの会社で、1987年に設立。
今年がちょうど満30年となります。
本社兼工場のあるナコーンパトゥム県は首都バンコクからほぼ真西に約40キロ。
県内には水産の街マハーチャイもあり、食に対する歴史と文化の豊かなエリアです。
もともとは製糖業で実績を挙げた企業グループなのですが、その後、海外からの多様な食の広がりもあって、調味料製造などにも力を入れるようになりました。
グループ内企業のBIFが誕生したのは、ちょうどそのような時期です。
一族の3代目となるソムポップ氏を代表に会社が設立され、米粉製造などの製粉部門からスタート。
その後、日本食材の製造を担うフローズン部門へと拡大していきました。
このうち、私(藤岡)がフローズン部門の責任者として現在担当をしています。
Q:どのような経緯でBIFに入社され、どういった取り組みを?
A:入社したのは13年前のことです。
日本の大学で栄養学を学び、管理栄養士としてタイへ。
ちょうど4年経った頃、縁があってこちらの会社にお世話になることとなりました。
当時はコンビニ弁当の受託生産などを始めており、それなりに知名度もありました。
しかし、屋台のタイ料理なら30バーツも出せば満足に食べられる時代。
コンビニ弁当はどんなに安く作ったところで1個あたり50バーツが限界。
とても太刀打ちできません。
さらに仮に売れても、あまりの薄利で十分な商売になりません。
これでは、いつまで経っても低空飛行から脱することができないと思い、上司のソムポップ氏に直談判してみたのです。
私の提案は、ごく簡単なものでした。
弁当のおかずを調理できる設備とスタッフの高い能力があるのだから、そのおかずを自社の食材商品として販売してみてはどうか、という内容でした。
ソムポップ氏は快諾され、「やってみろ」と背中を押してくれました。
これが、現在のBIFフローズン部門の源流となっています。
Q:フローズン部門の生みの親。その後はどのように事業を拡大したのですか?
A:市場の認知を得るため、新たなブランドを立ち上げました。
今では2大主力商品に成長した「あかり(AKARI)」と「らく(RAKU)」です。
2005年のことでした。
このうち、「あかり」は、ハンバーグやギョウザ、唐揚げ、トンカツなど主に一般消費者、家庭向け。
タイ国内のスーパーマーケットや小売各店で販売しており、日本食を気軽に美味しくご家庭でも、がコンセプト。
調理法も、電子レンジもしくは湯煎と手軽です。
一方の「らく」は業務用、飲食店向け。
一つ一つを手作りしていては大変という店舗の強い味方になろうと開発しました。
定番のカレーソースや串カツ、たこ焼き、肉じゃがやきんぴらといった小鉢など豊富にメニューを取り揃えました。
食品メーカーや飲食店舗に合わせた特注品、オリジナルブランドの開発・生産も行っています。
いわゆるOEM(相手先ブランド)生産です。
ここで気をつけたのは、ロットを引き下げること。
OEM市場でも通常は2~3トンとなる最小単位を、10分の1以下の100~200キロへと利用しやすくしました。
これにより、小規模店舗のニーズの受皿になることができました。
Q:品質や味覚への対策は?
A:海外産の日本食だから、この程度ならいいだろうという妥協は一切しませんでした。
なんちゃって日本食は所詮、その程度。
だったら、やめたほうがいい。
当社では、当初から日本ほか海外向け輸出も念頭に置いておりました。
そうであるならば、まずは規制の厳しい日本の農林水産省の許可を得ようと努力を重ねました。
豚肉や鶏肉といった加工食品の輸出許可のうち、豚肉製品の審査は特に厳しいことで知られています。
タイでもわずかな食品加工メーカーしか認められていません。
当社ではいち早くこれらの許可を取得。
信頼を得ることに成功しました。
Q:新たな市場開拓と今後について。
A:タイの人口増加も頭打ちとなり、今後は少子高齢化が進んで行く見通しです。
海外輸出の重要性はますます膨らんでいくことでしょう。
そのためには、日本食に限らず洋食やタイ料理など多彩なメニューのラインナップも必要と考えています。
一方で、国内市場の見直しも進めていきます。
例えば、企業・団体向けの給食サービス。
タイには多くの外国企業が進出しています。
こういったところへ当社の製品を役立てることができないかについても検討を行っています。
当社にはコストを抑えて大量生産するという、30年にわたる蓄積されたノウハウがあります。
これらを有効に活用すれば、少なくなりつつある屋台料理の補完にもなると考えます。
ますます、魅力的なBIFを目指していきます。
【取材後記】タイにある日本食レストランを陰に日向に支えているのが、少なくない日本食材メーカーだ。
関税や輸送費もあって日本からの輸入はできる限り少なくしたいのが飲食店経営者の共通した考え。
こうしたニーズを受けて始まったのが、タイの現地生産だった。
だが、ノウハウの確立や従業員の確保など課題も少なくない。
これらを見事、克服したのがBIFだった。
今後の動向にも注目だ。
最後の写真の左が藤岡氏。
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