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【ペンのASEAN紀行】欧州からの観光客増に沸くベトナム

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戦争終結から40有余年のベトナムで今、欧州からの外国人旅行客が激増しているのをご存じだろうか。2016年10月末の時点で過去最高を記録。年間800万人を突破した。同月末における対前年比の伸び率は25.4%と他の地域の追随を許さない。背景には、戦争の過去という“負の遺産”を乗り越え、国際市場に踏み出そうという政府の強い意志があった。同じ東南アジアにある近隣国タイから現地入りした著者が、現在のベトナム市場を概観した。

かつてのサイゴン、現在の商都ホーチミン・シティー。数日前に就航したばかりの格安航空会社に乗って、著者はバンコク・ドンムアン空港から空路ベトナム入りした。銀色を基調とした美しい「タンソンニャット国際空港」。国際ターミナルと国内ターミナルの二つのビルが鈍角を形成するように隣接していた。

空港でデータ用のSIMカードを購入する。5GBまで1カ月間使用できるというプリペイドSIMが29万ドン(約1340円)。ただし、若干の注意点が必要で、「ベトナムではまだ4Gは通っていないの。それに、データ・トラフィックが起こりやすい時間帯は遅く感じるから予め承知しておいて」と売り子の女性は言った。

北部の首都ハノイとを結ぶ「統一鉄道」に乗車するため、サイゴン駅に向かった。ベトナム語で「ガッ・サイゴン」と吐き出すように一気に発音する。市名が「ホーチミン」に変わっても、今なお旧名をとどめる1930年代設置の始発終着駅。2階建て駅舎の1階構内には、チケットを買い求める客らで賑わっていた。

番号札を入手して順番を待っていると、隣に若い西洋人の二人連れ。「どこから来たんだい?」と尋ねると、「イングランドからさ」と陽気に答えていた。二つ違いの兄弟だそうで、途中駅ダナンで降りて、観光をするのだという。

午前9時前、ディーゼル機関車率いる11両編成の列車が出発する時間が迫った。改札らしい施設はなく、アオザイを着た乗務員が待合室からホームに通じるガラス戸を開けるだけ。乗客は五月雨式にホームに向かうと、車両ごとに配置された車掌に確認して自席へと乗り込んでいった。

列車は途中、クアンガイ、ダナン、フエといった主要な駅に各駅停車。ゆっくりと進行する。サイゴン発午前9時の列車がハノイに到着するのは、翌日夜の7時58分。実に35時間に及ぶ長旅だ。主に旅行者向けの「ソフト・シート」と呼ばれる寝台室もあるが、小柄なベトナム人仕様のためか、大柄な西洋人にはやや窮屈な様子だった。

ようやくハノイに到着。辺りはすっかりと陽が暮れている。旧市街に予約したゲストハウスに向かい、飲食店の所在地を聞くと、「この辺は西洋人向けにいくらでもあるさ。歩いてみたらどうだい?」と宿の店主。バー、洒落たレストラン、ハンバーガー屋、ビリヤード店と、確かに装いもウエスタン風なものばかり。簡単に腹ごしらえして次の日に備えた。

翌朝は乾期の爽やかな風が吹く旅行日和。確かに、西洋風の佇まいがあちこちで見られるほか、西洋人の姿も数多く目にする。いくつかの店で、このところの街並みの変化を聞いてみた。

「この1、2年でヨーロッパからのお客さんが増えたわ。だから、うちも、メニューをヨーロピアン風に変えたの」とレストランを経営するファンさん。「うちは以前は女性のマッサージ師だけだったんだが、西洋人は身体が大きいから力も要る。そこで男性マッサージ師を雇うようになったんだよ」とマッサージ店オーナーの男性も。

ベトナムでは国の方針から、長らく外国人客に対しビザ(査証)の取得を義務づけてきた。その後、段階的にビザ免除対象国を増やしてきたものの、2015年半ばの時点ではASEAN諸国のほか、日本、韓国、北欧、ロシアと限られた国ばかり。植民地支配やベトナム戦争で対峙したアメリカやフランスなどの欧米諸国は対象外となっていた。

転機は2015年の7月だった。日本や北欧などに加えて、新たに英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペインからの旅行者のビザ免除を決定。滞在期間15日までならビザ取得を要することなく、自由にベトナム国内を旅行できるようになったのだった。

「それからですね。ビザ免除で一気に西洋からのお客さんや企業の進出が始まったのは」と話すのは、現地でコンサルタント業を営む日本人の男性。現在、政府内では15日間を30日間まで拡張する案や対象国を増やす検討も進めている。

さらに、ベトナム政府が狙っているのが、中東で暮らす富裕層のイスラム教徒の取り組みだ。戒律で食事に厳しい制限のあるムスリム。資金力はあっても、受け入れ先のホテルやレストランが十分でないことから、東南アジアではマレーシアやタイなどに旅行客が偏ってきた。今後、こうしたムスリムを呼び寄せたいと考えている。

また、政府が西洋に食指を伸ばすのは、旅行者一人あたりが落とす金額がアジア人よりも平均で2割ほど高いという統計にもよっている。他の東南アジア諸国から遅れること20年。TPPへの参加など国際市場に矢継ぎ早に打って出るベトナム市場の飽くなき貪欲さを垣間見た気がした。

この記事を書いた人(著者情報)

kobori

2011年11月、タイ・バンコクに意を決して単身渡った元新聞記者。東京新聞(中日新聞東京本社)、テレビ朝日で社会部に所属。警視庁記者クラブで2・4課担当を通算4年経験。銀行破綻などの各種金融事件、阪神大震災、オウム真理教事件などの取材にも当たった。事件記者出身だが、取材対象は政治・経済、社会、科学、文化までなんでも。日本の新聞、雑誌、タイのフリーペーパーやウェブサイトなどでも執筆中。著述、講演多数。

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