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【ペンのASEAN紀行】南タイ経済の中心地ハートヤイ

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バンコクからほぼ真南方向に950km。
マレーシア国境まで60kmの場所に位置するのが、南部ソンクラー県ハートヤイ郡だ。
「小バンコク」と称され、銀行、企業、大学などが集まり高層ビル群を形成するさまは、この地方が南部随一の商業都市であることを印象づける。
中心部の市街地一帯は大幅な自治が与えられた「テーサバーンナコーン」にも指定されており、独自の条例を持ち、独自の街並みを形作ってもいる。
隣国マレーシアからは商売を求める越境者が頻繁に訪れる中継地としても知られているハートヤイ。
その魅力は何なのか。
年末の某日、独自の熱気を持つ当地を訪ねた。

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現地の人の発音によるもう一つの呼び名「ハジャイ」。
中心部の市街地に立った時、よもやこの場所の事実上の歴史が1世紀にも満たない新興都市だと知って驚かない人はいないだろう。
バンコクと見間違うような商業施設にホテル、歓楽街もある。
表玄関にあたるタイ国鉄ハートヤイ分岐駅は、その名にあるようにバンコクやマレーシア方面からの乗換駅としてごった返し、今日も多くの人々が行き交っている。

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そもそもソンクラー県の中心地は、ハートヤイから約30km、タイ湾に臨む県都ムアン・ソンクラーだった。
ここから水揚げされた食糧や物資が、牛車で陸上を経由。
マレー半島を横断し、西岸のカンタンやペナン島などに運ばれていた。
大きな転機となったのは、1909年、時の賢王ラーマ5世が定めた南部鉄道敷設計画だった。
これによりマレー半島を南下する国際鉄道の建設が決まり、沿線一帯の発達は大きく進むことになった。

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とはいえ、現在のハートヤイ市街地にあたる場所は、当時は民家が4戸ほどしかない見渡す限りの原野。
約3km手前に設置されたこの時の分岐駅ウータパオ周辺は洪水が頻繁で、とても人間が住める環境ではなかった。
こうした時に、タイ政府から鉄道の管理責任者として任命され、当地に赴任したのが中国広東省梅県出身の客家、謝枢泗だった。

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謝は分岐駅を現在のハートヤイ駅に移すと、付近の原野を買い入れ、平行する主要道路を切り開くなど街づくりに務めた。
道路の沿線には学校や病院、商業施設などを誘致。
故郷中国から客家のほか、福建、広東出身の人々も招き商業振興にも務めた。

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さらに、謝は自ら市街地の周辺でゴム園や錫鉱山を開発経営。
雇用を創生させたほか、農業や食品加工業などの振興にも力を注いだ。
産業が軌道に乗ると、今度は隣国マレーシアとの交易を推奨。
多くの貿易商人らが市街地に集まるようになった。

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こうして瞬く間に商業の街として成長したハートヤイは、その後の鉄道網や航空網の発達を背に、タイ南部の中枢都市として成長するに至った。
謝は1972年に86歳で死去するが、生前、地域の発展に貢献したなどとしてラーマ6世からニパット・チーンナコーンの官名を賜っている。
11人いた子供達は全員がタイ国籍を取得。ハートヤイの名家として現在に至っている。

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ハートヤイの街を歩いていると、バンコクや東部パタヤ、あるいは北部チェンマイなどとは違った「熱気」を感じ取ることができる。
文化や食事にマレー色やイスラムが混在しているからかもしれない。
バンコクとは異なった人種のるつぼとも言えるハートヤイ。
タイに関心を持つのなら、一度、訪ねてみてはいかがか。

この記事を書いた人(著者情報)

kobori

2011年11月、タイ・バンコクに意を決して単身渡った元新聞記者。東京新聞(中日新聞東京本社)、テレビ朝日で社会部に所属。警視庁記者クラブで2・4課担当を通算4年経験。銀行破綻などの各種金融事件、阪神大震災、オウム真理教事件などの取材にも当たった。事件記者出身だが、取材対象は政治・経済、社会、科学、文化までなんでも。日本の新聞、雑誌、タイのフリーペーパーやウェブサイトなどでも執筆中。著述、講演多数。

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